2010. 7月某日
『兵庫県南但馬の民話−養父・朝日敏雄の伝承−』という本があります。
これは私のレポート『須留ヶ峰・大杉山 山名考 』でお世話になった朝日祥雄さんの
お父さんである敏雄さんの伝承をまとめた本です。
その中にある『48夜念仏』の項を参考にこのレポート?を作成してみました。
ちなみこの本のすごいところは、1981年から5年に渡って260話もの民話を、 直接敏雄さんから聞き取ったものをまとめた本であるということです。 民話というと、村内にいる大勢の?お年寄りたちから聞き取るものという固定観念が ありましたが、一人の語り部がこれほどの量の話を記憶しできているのはなぜか? それらの事情も本には詳細に書かれており、それもまたおもしろい内容でした。
私がこの本の中で特に『48夜念仏』に惹かれた理由は、7月に朝日さん宅に訪問
させていただいたおり、『48夜念佛番帳』なるものを見せてもらったことによります。
それは下の写真のようなものでした。
そもそも『48夜念仏』とは養父各地で行われている、48夜に渡って念仏修行する という古くから伝承されている講である。そのさい、毎夜の当番を決めて、その担当者の名前を書きとどめているのか この『48夜念佛番帳』という1枚の板です。ふつうはそれに日にちと当番に当たった村人の 名前だけを書けばよいものだが、敏雄氏はその裏表に念仏講の由来の絵物語を書いているのです。
毎年のことなんので、その年に起こった村の出来事やら、世間のトピックスなどなど、いろいろと
絵柄も工夫されています。
村人たちも「今年の番帳はどんな絵が描かれているやろ?」と楽しみにしていたと思えるほど
すばらしい絵です。それは祥雄さんにも引き継がれており、お二人の書かれたたくさんの番帳を見せていただきました。
デジカメで撮影しているのでうまく撮れていませんが、念仏講の由来を伝承の文とともに
デジカメ紙芝居のはじまり、はじまり〜。
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(1)→(2)→(3)と見てください |
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あるとき、村のある者が木地師の家に盗賊に入り、家族を皆殺しにしてしまう。 当然生野の代官所が出てくるわけだが、そうなると村から犯人が出てしまうことになる。 今なら当人だけが罪を償うわけだが、当時は親族、一族はもちろんのこと、五人組なる仲間も島流しは免れない。 つまり村全体が責任を負わされることになるのだ。 ならばいっそ口あわせをして知らぬ存ぜぬで通してしまおうということになった。 |
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子供は隠れていて助かる! |
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息子と面通しの場 |
結局うやむやのまま犯人はわからなかった。しかし子供(成人になって)はなんとか敵討ちがしたいと 思い、刀鍛冶にたのんで小柄を十二丁打ってもらいそれを親の墓のところへ持っていく。
「霊魂があるもんなら、ぜひ敵を討ってくれえ。ここへ小柄を十二丁埋めるで、霊魂があるなら 敵ぅ討ってくれえ」と墓前で祈る。
祈りが通じたのか、毎夜狐が出てきて、村中を鳴き回わり、村人たちは恐ろしくて夜外へ出ることができない。 とうとう小便担桶を家の中に入れてそれで用をたす始末。その上、狐が鳴くのはどんな災難が 村に来るのかわからないので村中が困ってしまう。
このとき、宝生院に証人禅師という徳のあるお坊さんが住んでいて、なんとかしなければと、 霊が成仏するように祈祷を始める。 毎夜の村内を巡回しながらの読経によってきつねは去る。そして48夜の満願の日に墓から小柄を掘り出して お宮の敷地に埋め、『若宮さん』(無文字の石塔)としてお祀りすることになる。 その後二百年以上にわたり『48夜念仏』として現在まで続いているのだった。 |
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蛍光灯で光って見えにくいです。m(_ _)m |
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内容に関しては細かいところが抜けていると思いますが、ほぼこの通りだと思います。 今回紹介した絵は祥雄さんが平成六年に書かれたもので、原本ともいえる敏雄さんのものも見せていただきました。 親子二代にわたるすばらしい歴史遺産だと思うのですが、ぜひとも一般公開をお願いしたいものです (村内での公開は一度したことがあるそうです)。 |
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敏雄さんの描いたもの |
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徳本上人のゆかりの地なので徳本文字の名号の掛け軸がある |
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矢印の卒塔婆は現在も宝生院に保存されています |
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来ル昭和十一年の富山ニ於ル四十八夜念佛修行ノ 二百年紀念ニ富リマス怠ラズ勤メナサイ |
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私の駄文よりもわかりやすい記述はこの『但馬の木地屋』(昭和61年神戸新聞出版センター刊)の 『木地屋殺しと四十八夜念仏』という項をお読みください。 ほかにもたくさんの番帳がありましたし、宝生院にも立派な額があったりして、 とても一度では紹介しきれないのが残念です。再度見せてもらえる機会がありましたら ありがたいがチャンスはあるかなあ。 |