黒松古傳 『大島神社例大祭』その2

2013年 7月20日

祭礼はまず大島におわす市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)を仮殿にお迎えするとこから始まる。 港には市杵島姫命を迎えるための御神船(地元では『神さん船』と呼ぶ)があった。 ほんとうは(昔は)東灘から神輿、神官、氏子などを乗せて行くのだが、現在では、まずは港で太鼓を積み込み 漁船で東灘まで曳航という形式になっている。

御神船(神さん船)この船(天洋丸)に乗せてもらう

神さん船は動力のない船で、その姿は昔ながらの和船だ。母親が子供の頃は双胴船(二艘船と呼んでいた)だったそうだ。 母親の思い出話によると、戦後間もない頃、この神さん船が神輿、神官もろともひっくり返ったそうだ。 幸い?全員が無事だったということだが、これは市杵島姫命の機嫌を損ねたということなのかな?
東灘で神輿を積み込む再度曳航開始

数人の氏子と太鼓を積み込んだ神さん船を港から外海へ出す。私は天洋丸に乗せてもらい神事を間近で観るという初めての経験で 少し興奮気味。母親らは「絶対船酔いするから・・・」と脅していたが外海はまさにベタ凪で氷の上を滑っているような 感じ。船酔いの心配はいらないようだ。

天洋丸で神さん船を東灘の波打ち際まで曳航するのは無理なので途中で小型船にバトンタッチする。 沖から観ていると神輿を初めとして大勢の氏子が乗り込むのが見える。さっそく太鼓と鉦のリズムが聞こえてきた。 沖までやってくると小型船から再度バトンタッチして天洋丸での曳航の再開。 これから大島へ向かうのだが、その前に秀具利を廻るというイベントがあるのだ。

秀具利の周りを三周だ

子供の頃浜辺付近をただバシャバシャと水遊びするだけで、とうていこの秀具利(浜から約250mほど)まで泳ぐことは出来なかった。 それを今、船から間近に眺めている。本来は秀具利=ヒデグリと発音するのが正しいのだが、母親を初めとする村の人々は 一様に『オシテグリ』と呼んでいるのだった。

以前のレポートにも書いたが、 国土地理院の地形図にも秀具利と記載されているし、200年前の伊能忠敬の地図でも『ヒテクリ』とある。 具利とは岩礁のことで、秀具利の前に御が付けられ、『オンヒデグリ』が『オシテグリ』へと変化していったと 思われる。

元来オシテグリには何もないのだが、祭礼の前に二本の松が立てられる。子供のとき、帰省するお盆の頃には その松が二本の時もあれば、波にさらわれて一本だけになっているときもある。 こうやって間近で見ると詳細がわかっておもしろい。

松だけだと思ったら、竹と一緒に立っているのがわかる。その二本のあいだにはしめ縄のようにわら縄が張られている (心棒には竹が使われているように見える)。見ようによっては鳥居のようにも見える。大島で市杵島姫命を迎えて、 こちらへ帰るときもオシテグリを廻るのでやはり神様を迎えるための門のような役割があるのかも。

GPSによる航路を航空写真上に表してみる。

天洋丸にはフルノの魚探、GPS、無線機が設置されている。私も山用のハンディGPSを持ってきているので それで航路のログをとってみる。オシテグリもきれいに三周回っているのがわかる。この周回数は決まっているのかと 思ったら「今日は時間があるから三周にしよう」と結構アバウトだ。
漁船を従えた大船団女島を通過

オシテグリの周回も終わり一路大島へ。後ろを見ると神さん船を先頭に漁船団が後に続く。 まさに船渡御(ふなとぎょ)だ。正面を見ると、みるみる大島が近づいてくる。 ここも浅瀬があるので天洋丸から別の小型ボートに牽引を引き継ぐ。 神さん船が岸に着く頃、私も別のボートで大島へ向かう。
神輿はすでに上陸して本殿へ
不思議な石灯籠私がどん尻

いつも浜からこの大島を眺めたとき目に付くのが鳥居と一本だけの石灯籠だ。 さぞかし古い石灯籠なのだろうと想像していたのだが、実際に見て驚いた。 胴の部分はその辺に転がっている石をモルタルで固めてあり火袋もコンクリート製だった。 どういう意図でいつ作られたのか全く不明。
拝殿で神輿を練る本殿の中を見れず・・・

鳥居をくぐり石段を登り詰めたところが拝殿で、すでに神さんを神輿に移したのかそこでは神輿が練られていた。 奥の本殿では神主と世話役さんが扉の鍵を掛け終わったところだ。う〜ん、これは残念。

祭神である市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)というと一般の人には馴染みがうすいが、本地垂迹では市杵島姫命は 弁財天のことを言う。いわゆる七福神の弁天様というと誰もが親しみがあるのでは・・・。しかし、ここは『大島大明神』とあるので あくまでも市杵島姫命が御祭神です。

まもなく夕日が沈む

まだまだ明るいと思っていたが大島を離れる頃からお日さんは赤みを帯び、水平線に徐々に近づきつつあった。 帰路もオシテグリを周回するので、その時にオシテグリの松のあいだを夕日が沈むと最高なのだが タイミングは合いそうにない。
船に明かりがともる

ふと気がつくと船団に明かりがともっていた。漁り火とはまた違うほんわかとした灯りだ。 南の空にはまん丸な(満月ではないと思うが・・・)月が昇っている。
浜に見える明かりの列は御旅所。その前を通過する船団
港へ帰ってきました神輿は徒歩で御旅所へ

本来なら迎えに行くときと同じように東灘の浜から神輿を上陸させて、浜辺に設置された御旅所へ向かうのがほんとう?なのでしょうが、 そのまま港まで神さん船を曳航する。どうするのかと思ったら、そこから徒歩で神輿は御旅所へ向かっていた。 その御旅所では何が行われるのか?続きは『大島神社例大祭』その3に続く予定です・・・。


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